。これでは生甲斐《いきがい》がない、さればと云って死に切れない。何でも人のいない所へ行って、たった一人で住んでいたい。それが出来なければいっその事……
不思議な事にいっその事と観念して見たが別にどきんともしなかった。今まで東京にいた時分いっその事と無分別を起しかけた事もたびたびあるが、そのたびたびにどきんとしない事はなかった。後《あと》からぞっ[#「ぞっ」に傍点]として、まあ善かったと思わない事もなかった。ところが今度は天からどきん[#「どきん」に傍点]ともぞっ[#「ぞっ」に傍点]ともしない。どきん[#「どきん」に傍点]とでもぞっ[#「ぞっ」に傍点]とでも勝手にするが善《い》いと云うくらいに、不安の念が胸一杯に広がっていたんだろう。その上いっその事を断行するのが今が今ではないと云う安心がどこかにあるらしい。明日《あした》になるか明後日《あさって》になるか、ことに由《よ》ったら一週間も掛るか、まかり間違えば無期限に延ばしても差支《さしつかえ》ないと高《たか》を括《くく》っていたせいかも知れない。華厳《けごん》の瀑《たき》にしても浅間《あさま》の噴火口《ふんかこう》にしても道程《みちのり
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