どと考えながら用を足した。――実は自分がこれだけの結論に到着するためには、わずかの時間内だがこれほどの手数《てすう》と推論とを要したのである。このくらい骨を折ってすら、まだ長蔵さんのポン引きなる事をいわゆるポン引きなる純粋の意味において会得《えとく》する事が出来なかったのは、年が十九だったからである。
年の若いのは実に損なもので、こんなにポン引きの近所までどうか、こうか、漕《こ》ぎつけながら、それでも、もしや好意ずくの世話ずきから起った親切じゃあるまいかと思って、飛んだ気兼をしたのはおかしかった。
実は二人して、用を足して、のそのそ三等待合所の入口まで来た時、自分は比較的威儀を正して長蔵さんに、こんな事を云ったんである。
「あなたに、わざわざ先方《さき》まで連れて行っていただいては恐縮ですから、もうこれでたくさんです」
すると長蔵さんは返事もせずに変な顔をして、黙って自分の方を見ているから、これは礼の云いようがわるいのかとも思って、
「いろいろ御世話になってありがたいです。これから先はもう僕一人でやりますから、どうか御構いなく」
と云って、しきりに頭を下げた。すると、
「一人でや
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