にか曇った空が晴れて、細い月が出ている。路は存外明るい、その代り大変寒い。袷《あわせ》を通して、襯衣《シャツ》を通して、蒲鉾形《かまぼこなり》の月の光が肌まで浸《し》み込んで来るようだ。両袖を胸の前へ合せて、その中へ鼻から下を突込んで肩をできるだけ聳《そび》やかして歩行《ある》き出した。身体《からだ》はいじけているが腹の中はさっきよりだいぶん豊かになった。何の当分のうちだ。馴《な》れればそう苦にする事はない。何しろ一万余人もかたまって、毎日毎日いっしょに働いて、いっしょに飯を食って、いっしょに寝ているんだから、自分だって七日も練習すれば、一人前《いちにんまえ》に堕落する事はできるに違ない。――この時自分の頭の中には、堕落の二字がこの通りに出て来た。しかしただこの場合に都合のいい文字として湧《わ》いて出たまでで、堕落の内容を明かに代表していなかったから、別に恐ろしいとも思わなかった。それで、比較的元気づいて飯場《はんば》へ帰って来た。五六間手前まで来ると、何だかわいわい云っている。外は淋《さび》しい月である。自分は家《うち》の騒ぎを聞いて、淋しい月を見上げて、しばらく立っていた。そうした
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