てくるんだと思った。そこで安さんに敵は取ってくれないでも好いから、どうか帰さずに当分置いて貰えまいかと頼んだ。安さんは、あまりの馬鹿らしさに、気の毒そうな顔をして、呆《あき》れ返っていたが、
「それじゃ、いるさ。――何も頼むの頼まないのって、そりゃ君の勝手だあね。相談するがものはないや」
「でも、あなたが承知して下さらないと、いにくいですから」
「せっかくそう云うんなら、当分にするがいい。長くいちゃいけない」
 自分は謹《つつし》んで安さんの旨《むね》を領《りょう》した。実際自分もその考えでいたんだから、これはけっして御交際《おつきあい》の挨拶《あいさつ》ではなかった。それからいろいろな話をしたがシキ[#「シキ」に傍点]の中の述懐と大した変りはなかった。ただ安さんの兄《あに》さんが高等官になって長崎にいると云う事を聞いて、大いに感動した。安さんの身になっても、兄さんの身になっても、定めし苦しいだろうと思うにつけ、自分と自分の親と結びつけて考え出したら何となく悲しくなった。帰る時に安さんが出口まで送って来て、相談でもあるならいつでも来るが好いと云ってくれた。
 表へ出ると、いつの間《ま》
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