犠牲になるように出来上ったものだ。
同時に自分のばらばらな魂がふらふら不規則に活動する現状を目撃して、自分を他人扱いに観察した贔屓目《ひいきめ》なしの真相から割り出して考えると、人間ほど的《あて》にならないものはない。約束とか契《ちかい》とか云うものは自分の魂を自覚した人にはとても出来ない話だ。またその約束を楯《たて》にとって相手をぎゅぎゅ押しつけるなんて蛮行は野暮《やぼ》の至りである。大抵の約束を実行する場合を、よく注意して調べて見ると、どこかに無理があるにもかかわらず、その無理を強《しい》て圧《お》しかくして、知らぬ顔でやって退《の》けるまでである。決して魂の自由行動じゃない。はやくから、ここに気がついたなら、むやみに人を恨《うら》んだり、悶《もだ》えたり、苦しまぎれに自宅《うち》を飛び出したりしなくっても済んだかも知れない。たとい飛び出してもこの茶店まで来て、どてら[#「どてら」に傍点]と神さんに対する自分の態度が、昨日までの自分とは打って変ったところを、他人扱いに落ち着き払って比較するだけの余裕があったら、少しは悟れたろう。
惜しい事に当時の自分には自分に対する研究心と云う
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