《うれ》しい。自分が嬉しさの余り、疲れた足を擦《ず》りながら、いそいそ近づいてくると、初さんは奇怪《けげん》な顔をして、
「やあ出て来たな。よく路《みち》が分ったな」
と云った。自分が案内につけられながら、他《ひと》を置き去りにして、何とかして何とか、てててててと云う唄《うた》をうたって、大いに焦《じら》して置いて、他が大迷《おおまご》つきに、迷《まご》ついて、穴の角《かど》へ頭をぶっつけて割って見ようとまで思ったあげく、やっとの事で安さんの御情《おなさけ》で出て来れば、「よく路が分ったな」と空とぼけている。その癖親方が怖《こわ》いものだから、途中で待ち合せて、いっしょに連れて帰ろうと云う目算《もくろみ》である。自分は石へ腰を掛けて薄笑いをしているこの案内の頭の上へ唾液《つばき》を吐きかけてやろうかと思った。しかし自分は死ぬのを断念したばかりである。当分はここに留《とど》まらなくっちゃならない身体《からだ》である。唾液を吐きかければ、喧嘩《けんか》になるだけである。喧嘩をすれば負けるだけである。負けた上にスノコ[#「スノコ」に傍点]の中へぶちこまれてはせっかく死ぬのを断念した甲斐《かい
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