》がない。そこで、こう云う答をした。
「どうか、こうか出て来ました」
 すると初さんはなおさら不思議な顔をして、
「へえ。感心だね。一人で出て来たのか」
と聞いた。その時自分は年の割にはうまくやった。旨《うま》くやったと云うくらいだから、ただ自分の損にならないようにと云うだけで、それより以外に賞《ほ》める価値《ねうち》のある所作《しょさ》じゃないが、とにかく十九にしては、なかなか複雑な曲者《くせもの》だと思う。と云うのは、こう聞かれた時に、安さんの名前がつい咽喉《のど》の先まで出たんである。ところをとうとう云わずにしまったのが自慢なのだ。随分くだらない自慢だが訳を話せば、こんな料簡《りょうけん》であった。山中組の安さんは勢力のある坑夫に違ない。この安さんがわざわざ第一見張所の傍《そば》まで見ず知らずの自分を親切に連れて来てくれたと云う事が知れ渡れば、この案内者は面目を失うにきまっている。責任のある自分が、責任を抛《ほう》り出して、先へ坑《あな》を飛び出してしまったと分る以上は――しかもそれが悪意から出たと明瞭《めいりょう》に証拠《しょうこ》だてられる以上は、こいつは親方に対して済ましち
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