込むのかしら、坑《あな》の中で一六勝負《いちろくしょうぶ》をやるのかしら、ジャンボー[#「ジャンボー」に傍点]を病人に見せて調戯《からか》うのかしら、女房を抵当に――まさか、そんな事もあるまい。昨日《きのう》着き立ての自分を見て愚弄《ぐろう》しないもののないうちで、安さんだけは暗い穴の底ながら、十分自分の人格を認めてくれた。安さんは坑夫の仕事はしているが、心《しん》までの坑夫じゃない。それでも堕落したと云った。しかもこの堕落から生涯《しょうがい》出る事ができないと云った。堕落の底に死んで活《い》きてるんだと云った。それほど堕落したと自覚していながら、生きて働いている。生きてかんかん敲《たた》いている。生きて――自分を救おうとしている。安さんが生きてる以上は自分も死んではならない。死ぬのは弱い。……
 こう決心をして、何でも構わないから、ひとまず坑夫になった上として、できるだけ急ぎ足で帰って来ると、長屋の半丁ばかり手前に初さんが石へ腰を掛けて待っている。雨は歇《や》んだ。空はまだ曇っているが、濡《ぬ》れる気遣《きづかい》はない。山から風が吹いて来る。寒くても、世界の明かるいのが、非常に嬉
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