ずむずして、小鼻がぴくついて来る。やがて鼻と口を塞《せ》かれた感動が、出端《では》を失って、眼の中にたまって来た。睫《まつげ》が重くなる。瞼《まぶた》が熱くなる。大《おおい》に困った。安さんも妙な顔をしている。二人ともばつ[#「ばつ」に傍点]が悪くなって、差し向いで胡坐《あぐら》をかいたまま、黙っていた。その時次の作事場《さくじば》で鉱《あらがね》を敲《たた》く音がかあんかあん鳴った。今考えると、自分と安さんが黙然《もくねん》と顔を見合せていた場所は、地面の下何百尺くらいな深さだか、それを正確に知って置きたかった。都会でも、こんな奇遇は少い。銅山《やま》の中では有ろうはずがない。日の照らない坑《あな》の底で、世から、人から、歴史から、太陽からも、忘れられた二人が、ありがたい誨《おしえ》を垂れて、尊《たっ》とい涙を流した舞台があろうとは、胡坐をかいて、黙然と互に顔を見守っていた本人よりほかに知るものはあるまい。
安さんはまた煙草《たばこ》を呑《の》み出した。ぷかりぷかりと煙《けむ》が出た。その煙が濃く出ては暗がりに消え、濃く出ては暗がりに消える間に、自分はようやく声が自由になった。
「
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