ありがたいです。なるほどあなたのおっしゃる通り人間のいる所じゃないでしょう。僕もあなたに逢《あ》うまでは、今日《きょう》限り銅山《やま》を出ようかと思ってたんです。……」
 さすが山を出て死ぬつもりだったとは云いかねたから、ここでちょっと句を切ったら、
「そりゃなおさらだ。さっそく帰るがいい」
と、安さんが勢いをつけてくれた。自分はやっぱり黙っていた。すると、
「だから旅費はおれが拵《こしら》えてやるから」
と云う。自分はさっきから旅費旅費と聞かされるのを、ただ善意に解釈していたが、さればと云って毫《ごう》も貰う気は起らなかった。昨日《きのう》飯場頭《はんばがしら》の合力《ごうりょく》を断った時の料簡《りょうけん》と同じかと云うと、それとも違う。昨日は是非貰いたかった、地平《じびた》へ手を突いてまで貰いたかった。しかし草鞋銭《わらじせん》を貰うよりも、坑夫になる方が得だと勘定したから、手を出して頂きたいところを、無理に断ったんである。安さんの旅費は始めから貰いたくない。好意を空《むな》しくすると云う点から見れば、貰わなければ済まないし、坑夫をやめるとすれば貰う方が便利だが、それにもかか
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