な目的を持って来ても駄目だ。決心も目的もたった二三日《にさんち》で突ッつき殺されてしまう。それが気の毒だ。いかにも可哀想《かわいそう》だ。理想も何にもない鑿《のみ》と槌《つち》よりほかに使う術《すべ》を知らない野郎なら、それで結構だが。しかし君のような――君は学校へ行ったろう。――どこへ行った。――ええ? まあどこでもいい。それに若いよ。シキ[#「シキ」に傍点]へ抛《ほう》り込まれるには若過ぎるよ。ここは人間の屑《くず》が抛り込まれる所だ。全く人間の墓所《はかしょ》だ。生きて葬《ほうぶ》られる所だ。一度|踏《ふ》ん込《ご》んだが最後、どんな立派な人間でも、出られっこのない陥穽《おとしあな》だ。そんな事とは知らずに、大方ポン引《びき》の言いなりしだいになって、引張られて来たんだろう。それを君のために悲しむんだ。人一人を堕落させるのは大事件だ。殺しちまう方がまだ罪が浅い。堕落した奴はそれだけ害をする。他人に迷惑を掛ける。――実はおれもその一人《いちにん》だ。が、こうなっちゃ堕落しているよりほかに道はない。いくら泣いたって、悔《くや》んだって堕落しているよりほかに道はない。だから君は今のうち
前へ
次へ
全334ページ中295ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング