どうだ……」
と途中で、いきなり自分に質問を掛けた。
 自分は藪《やぶ》から棒《ぼう》の質問に、用意の返事を持ち合せなかったから、はっと思った。自分の腹ん中にあるのは、昔《むかし》どころではない。一二年前から一昨日《おととい》まで持ち越した現在に等しい過去である。自分はいっその事自分の心事をこの男の前に打ち明けてしまおうかと思った。すると相手は、さも打ち明けさせまいと自分を遮《さえぎ》るごとくに、話の続きを始めた。
「六年ここに住んでいるうちに人間の汚ないところは大抵|見悉《みつく》した。でも出る気にならない。いくら腹が立っても、いくら嘔吐《おうと》を催《もよお》しそうでも、出る気にならない。しかし社会には、――日の当る社会には――ここよりまだ苦しい所がある。それを思うと、辛抱も出来る。ただ暗くって狭《せば》い所だと思えばそれで済む。身体も今じゃ銅臭《あかがねくさ》くなって、一日もカンテラ[#「カンテラ」に傍点]の油を嗅《か》がなくっちゃいられなくなった。しかし――しかしそりゃおれの事だ。君の事じゃない。君がそうなっちゃ大変だ。生きてる人間が銅臭くなっちゃ大変だ。いや、どんな決心でどん
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