しみず》が沁み込むのも、全く気がつかなかった。したがって何分《なんぷん》過《た》ったのかとんと感じに乗らない。するとまた熱い涙が出て来た。心が存外たしかであるのに、眼だけが霞《かす》んでくる。いくら瞬《まばたき》をしても駄目だ。湯の中に眸《ひとみ》を漬《つ》けてるようだ。くしゃくしゃする。焦心《じれっ》たくなる。癇《かん》が起る。奮興《ふんこう》の度が烈《はげ》しくなる。そうして、身体は思うように利《き》かない。自分は歯を食い締《しば》って、両手で握った段木を二三度揺り動かした。無論動きゃしない。いっその事、手を離しちまおうかしらん。逆さに落ちて頭から先へ砕ける方が、早く片がついていい。とむらむらと死ぬ気が起った。――梯子の下では、死んじゃ大変だと飛び起きたものが、梯子の途中へ来ると、急に太い短い無分別を起して、全く死ぬ気になったのは、自分の生涯《しょうがい》における心理推移の現象のうちで、もっとも記憶すべき事実である。自分は心理学者でないから、こう云う変化を、どう説明したら適切であるか知らないけれども、心理学者はかえって、実際の経験に乏しいようにも思うから、杜撰《ずさん》ながら、一応
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