た。この時初さんはますます愉快そうな顔つきだったが、やがて真面目《まじめ》になって、
「八番坑だ。これがどん底だ。水ぐらいあるなあ当前《あたりめえ》だ。そんなに、おっかながるにゃ当らねえ。まあ好いからこっちへ来ねえ」
となかなか承知しないから、仕方なしに、股《また》まで濡《ぬ》らしてついて行った。たださえ暗い坑《あな》の中だから、思い切った喩《たとえ》を云えば、頭から暗闇《くらやみ》に濡れてると形容しても差支《さしつかえ》ない。その上本当の水、しかも坑と同じ色の水に濡れるんだから、心持の悪い所が、倍悪くなる。その上水は踝《くろぶし》からだんだん競《せ》り上がって来る。今では腰まで漬《つ》かっている。しかも動くたんびに、波が立つから、実際の水際以上までが濡れてくる。そうして、濡れた所は乾かないのに、波はことによると、濡れた所よりも高く上がるから、つまりは一寸二寸と身体《からだ》が腹まで冷えてくる。坑で頭から冷えて、水で腹まで冷えて、二重に冷え切って、不知案内《ふちあんない》の所を海鼠《なまこ》のようについて行った。すると、右の方に穴があって、洞《ほら》のように深く開《ひら》いてる中から、
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