と思ってるうち、水はとうとう腰まで来てしまった。
「まだ這入るんですか」
と、自分はたまらなくなったから、後《うしろ》から初さんを呼び留めた。この声は普通の質問の声ではない。吾身《わがみ》を思うの余り、命が口から飛び出したようなものである。だから、いざと云う間際《まぎわ》には単音《たんいん》の叫声となってあらわれるところを、まだ初さんの手前を憚《はばか》るだけの余裕があるから、しばらく恐怖の質問と姿を変じたまでである。この声を聞きつけた時は、さすがの初さんも水の中で留まったなり、振り返った。カンテラ[#「カンテラ」に傍点]を高く差し上げる。眸《ひとみ》を据《す》えると初さんの眉《まゆ》の間に八の字が寄って来た。しかも口元は笑っている。
「どうした。降参したか」
「いえ、この水が……」
と自分は、腰の辺《あたり》を、物凄《ものすご》そうに眺《なが》めた。初さんは毫《ごう》も感心しない。やっぱりにこにこしている。出水《でみず》の往来を、通行人が尻をまくって面白そうに渉《わた》る時のように見えた。自分もこれで疑いは晴れたが、根が臆病だから、念のため、もう一度、
「大丈夫でしょうか」
を繰返し
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