と聞いた。すると初さんが、
「ハハハハもう梯子はないよ。大丈夫だ」
と好意的の笑《えみ》を洩《も》らした。そこで自分も我慢のしついでだと観念して、また初さんの尻について行くと、また下りる。そうして下りるに従って路へ水が溜って来た。ぴちゃぴちゃと云う音がする。カンテラ[#「カンテラ」に傍点]の灯《ひ》で照らして見ると、下谷《したや》辺の溝渠《どぶ》が溢《あふ》れたように、薄鼠《うすねずみ》になってだぶだぶしている。その泥水がまた馬鹿に冷たい。指の股が切られるようである。けれども一面の水だから、せっかく水を抜いた足を、また無惨《むざん》にも水の中へ落さなくっちゃならない。片足を揚げると、五位鷺《ごいさぎ》のようにそのままで立っていたくなる。それでも仕方なしに草鞋《わらじ》の裏を着けるとぴちゃりと云うが早いか、水際から、魚の鰭《ひれ》のような波が立つ。その片側がカンテラ[#「カンテラ」に傍点]の灯できらきらと光るかと思うと、すぐ落ちついてもとに帰る。せっかく平《たいら》になった上をまたぴちゃりと踏み荒らす。魚の鰭がまた光る。こう云う風にして、奥へ奥へと這入《はい》って行くと、水はだんだん深
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