響が手伝って、底で出ただけの響は、いかに微《かすか》な遠くであっても、洩《も》らすところなく上まで送り出す。――ざっとこんな音である。カラララン。カカラアン。……
初さんが留《とま》った。
「聞えるか」
「聞えます」
「スノコ[#「スノコ」に傍点]へ鉱を落してる」
「はああ……」
「ついでだからスノコ[#「スノコ」に傍点]を見せてやろう」
と、急に思いついたような調子で、勢いよく初さんが、一足後へ引いて草鞋《わらじ》の踵《かかと》を向け直した。自分が耳の方へ気を取られて、返事もしないうちに、初さんは右へ切れた。自分も続いて暗いなかへ這入る。
折れた路はわずか四尺ほどで行き当る。ところをまた右へ廻り込むと、一間ばかり先が急に薄明るく、縦にも横にも広がっている。その中に黒い影が二つあった。自分達がその傍《そば》まで近づいた時、黒い影の一つが、左の足と共に、精一杯前へ出した力を後《うしろ》へ抜く拍子《ひょうし》に、大きな箕《み》を、斜《はす》に抛《な》げ返した。箕は足掛りの板の上に落ちた。カカン、カラカランと云う音が遠くへ落ちて行く。一尺前は大きな穴である。広さは畳|二畳敷《にじょうじき
前へ
次へ
全334ページ中246ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング