――顔らしいものが出ている。自分があまり手間取るんで、初さんが屈《こご》んでこっちを覗《のぞ》き込んでるところであった。この一間をどうして抜け出したか、今じゃ善く覚えていない。何しろできるだけ早く穴まで来て、首だけ出すと、もう初さんは顔を引っ込まして穴の外に立っている。その足が二本自分の鼻の先に見えた。自分はやれ嬉《うれ》しやと狭い所を潜《くぐ》り抜けた。
「何をしていたんだ」
「あんまり狭いもんだから」
「狭いんで驚いちゃ、シキ[#「シキ」に傍点]へは一足《ひとあし》だって踏《ふ》ん込《ご》めっこはねえ。陸《おか》のように地面はねえ所《とこ》だくらいは、どんな頓珍漢《とんちんかん》だって知ってるはずだ」
初さんはたしかに坑《あな》の中は陸のように地面のない所だと云った。この人は時々思い掛けない事を云うから、今度もたしかにとただし書《がき》をつけて、その確実な事を保証して置くんである。自分は何か云い訳をするたんびに、初さんから容赦なくやっつけられるんで、大抵は黙っていたが、この時はつい、
「でもカンテラ[#「カンテラ」に傍点]が消えそうで、心配したもんですから」
と云っちまった。する
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