ちてカンテラ[#「カンテラ」に傍点]のじいと鳴るのが気にかかる。初さんは先へ行ってしまった。頼《たより》はカンテラ[#「カンテラ」に傍点]一つである。そのカンテラ[#「カンテラ」に傍点]がじいと鳴って水のために消えそうになる。かと思うとまた明かるくなる。まあよかったと安心する時分に、またぽたりと落ちて来る。じいと鳴る。消えそうになる。非常に心細い。実は今までも、しずくは始終《しじゅう》垂れていたんだが、灯《ひ》が腰から下にあるんで、いっこう気がつかなかったんだろう。灯が耳の近くへ来て、じいと云う音が聞えるようになってから急に神経が起って来た。だから這う方はなお遅くなる。しかもまだ三足しか歩いちゃいない。ところへ突然初さんの声がした。
「やい、好い加減に出て来ねえか。何をぐずぐずしているんだ。――早くしないと日が暮れちまうよ」
暗いなかで初さんはたしかに日が暮れちまうと云った。
自分は這《は》いながら、咽喉仏《のどぼとけ》の角《かど》を尖《とが》らすほどに顎《あご》を突き出して、初さんの方を見た。すると一間《いっけん》ばかり向うに熊の穴見たようなものがあって、その穴から、初さんの顔が
前へ
次へ
全334ページ中226ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング