してこれがそうだとは断言出来なかったが――何だか直覚的に南京虫らしいと思った。こう云う下卑《げび》た所に直覚の二字を濫用《らんよう》しては済まんが、ほかに言葉がないから、やむを得ず高尚な術語を使った。さてその虫を検査しているうちに、非常に悪《にく》らしくなって来た。囲炉裏の縁《ふち》へ乗せて、ぴちりと親指の爪で圧《お》し潰《つぶ》したら、云うに云われぬ青臭い虫であった。この青臭い臭気《におい》を嗅《か》ぐと、何となく好い心持になる。――自分はこんな醜い事を真面目《まじめ》にかかねばならぬほど狂違染《きちがいじ》みていた。実を云うと、この青臭い臭気を嗅ぐまでは、恨《うらみ》を霽《は》らしたような気がしなかったのである。それだから捕《と》っては潰し、捕っては潰し、潰すたんびに親指の爪を鼻へあてがって嗅いでいた。すると鼻の奥へ詰って来た。今にも涙が出そうになる。非常に情《なさけ》ない。それだのに、爪を嗅ぐと愉快である。この時二階下で大勢が一度にどっと笑う声がした。自分は急に虫を潰すのをやめた。広間を見渡すと誰もいない。金さんだけが、平たくなって静かに寝ている。頭も足も見えない。そのほかにたっ
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