理に引き摺り起して、否《いや》と云うのを抑えつけるばかりにしてまで見せてやる葬式である。まことに無邪気の極《きょく》で、また冷刻の極である。
「金しゅう、どうだ、見えたか、面白いだろう」
と云ってる。病人は、
「うん、見えたから、床《とこ》ん所まで連れてって、寝かしてくれよ。後生《ごしょう》だから」
と頼んでいる。さっきの二人は再び病人を中へ挟んで、
「よっしょいよっしょい」
と云いながら、刻《きざ》み足に、布団《ふとん》の敷いてある所まで連れて行った。
 この時曇った空が、粉になって落ちて来たかと思われるような雨が降り出した。ジャンボー[#「ジャンボー」に傍点]はこの雨の中を敲《たた》き立てて町の方へ下《くだ》って行く。大勢は
「また雨だ」
と云いながら、窓を立て切って、各々《めいめい》囲炉裏《いろり》の傍《はた》へ帰る。この混雑紛《どさくさまぎれ》に自分もいつの間《ま》にか獰猛《どうもう》の仲間入りをして、火の近所まで寄る事が出来た。これは偶然の結果でもあり、また故意の所作《しょさ》でもあった。と云うものは火の気がなくってははなはだ寒い。袷《あわせ》一枚ではとても凌《しの》ぎ兼ねる
前へ 次へ
全334ページ中189ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング