が、何で区別するんだか要領を得ない。今までのところで察して見ると、儲《もう》かるときには君になって、不断の時には御前さんに復するようにも見える。何でも儲かる事がだいぶん気になっているらしい。
「十九です」
と答えた。実際その時は十九に違なかったのである。
「まだ若いんだね」
と口のゆがんだ神さんが、後向《うしろむき》になって盆を拭《ふ》きながら云った。後向きだから、どんな顔つきをしているか見えない。独《ひと》り言《ごと》だかどてら[#「どてら」に傍点]に話しかけてるんだか、それとも自分を相手にする気なんだか分らなかった。するとどてら[#「どてら」に傍点]は、さも調子づいた様子で、
「そうさ、十九じゃ若いもんだ。働き盛りだ」
と、どうしても働かなくっちゃならないような語気である。自分はだまって床几《しょうぎ》を離れた。
 正面に駄菓子《だがし》を載《の》せる台があって、縁《ふち》の毀《と》れた菓子箱の傍《そば》に、大きな皿がある。上に青い布巾《ふきん》がかかっている下から、丸い揚饅頭《あげまんじゅう》が食《は》み出している。自分はこの饅頭が喰いたくなったから、腰を浮かして菓子台の前まで来
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