をぱちつかせている。
 こうなると、自分もいつまで沈んでいたって際限がないから、起き上った。長蔵さんも全く起きた。小僧は立ち上がった。寝ているものは赤毛布《あかげっと》ばかりである。これはまた呑気《のんき》なもんで、依然として毛布《けっと》から大きな足を出してぐうぐう鼾声《いびき》をかいて寝ている。それを長蔵さんが起す。――
「御前《おまえ》さん。おい御前さん。もう起きないと御午《おひる》までに銅山《やま》へ行きつけないよ」
 御前さんが三四返繰返されたが、毛布はよく寝ている。仕方がないから長蔵さんは毛布の肩へ手を懸けて、
「おい、おい」
と揺《ゆす》り始めたんで、やむを得ず、毛布《けっと》の方でも「おい」と同じような返事をして、中途|半端《はんぱ》に立ち上った。これでみんな起きたようなものの、自分は顔も洗わず、飯も食わず、どうして好いか迷ってると、長蔵さんが、
「じゃ、そろそろ出掛けよう」
と云って、真先に土間へ降りかけたには驚いた。小僧がつづいて降りる。毛布も不得要領に土間へ大きな足をぶら下げた。こうなると自分も何とか片をつけなくっちゃならないから、一番あとから下駄を突掛《つッか》
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