《おちい》っちまう。それから例のごとく首が落ちる。微《かすか》に生きてるような気になる。かと思うとまた一切空《いっさいくう》に這入る。しまいには、とうとう、いくら首がのめって来ても、動じなくなった。あるいはのめったなり、頭の重みで横にぶっ倒れちまったのかも知れない。とにかく安々と夜明まで寝て、眼が覚《さ》めた時は、もう居眠《いねぶ》りはしていなかった。通例のごとく身体全体を畳の上につけて長くなっていた。そうして涎《よだれ》を垂れている。――自分は馬の話を聞いて居眠りを始めて、眼をあけて借金の話を聞いて、また居眠りの続を復習しているうちに、とうとう居眠りを本式に崩して長くなったぎり、魂の音沙汰《おとさた》を聞かなかったんだから、眼が覚めて、夜が明けて、世の中が土台から陰と陽に引ッ繰り返ってるのを見るや否《いな》や、眼をあいて涎《よだれ》を垂れて、横になったまま、じっとしていた。自覚があって死んでたらこんなだろう。生きてるけれども動く気にならなかった。昨夜《ゆうべ》の事は一から十までよく覚えている。しかし昨夜の一から十までが自然と延びて今日まで持ち越したとは受け取れない。自分の経験はすべて
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