が空を見事に突っ切って、頭の上は細く上まで開《あ》いているなと、仰向《あおむ》いた時、始めて勘づくくらいな暗い路である。星明りと云うけれど、あまり便《たより》にゃならない。提灯《ちょうちん》なんか無論持ち合せようはずがない。自分の方から云うと、先へ行く赤毛布《あかげっと》が目標《めあて》である。夜だから赤くは見えないが、何だか赤毛布らしく思われる。明るいうちから、あの毛布《けっと》、あの毛布と御題目《おだいもく》のように見詰めて覘《ねらい》をつけて来たせいで、日が暮れて、突然の眼には毛布だか何だか分らないところを、自分だけにはちゃんと赤毛布に見えるんだろう。信心の功徳《くどく》なんてえのは大方こんなところから出るに違ない。自分はこう云う訳で、どうにか目標《めじるし》だけはつけて置いたようなものの、長蔵さんに至っては、どのくらいあとから自分が跟《つ》いてくるか分りようがない。ところをちゃんと五六間以上になると留《と》まってくれる。留まってくれるんだか、留まる方が向うの勝手なんだか、判然しないが、とにかく留まることはたしかだった。とうてい素人《しろうと》にゃできない芸である。自分は苦しいう
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