っと》と、それから見様見真似《みようみまね》で、大いに呑気になりかけた自分と、都合四人で橋向うの小路《こみち》を左へ切れた。これから川に沿って登りになるんだから、気をつけるが好いと云う注意を受けた。自分は今|芋《いも》を食ったばかりだから、もう空腹じゃない。足は昨夕《ゆうべ》から歩き続けで草臥《くたび》れてはいるが、あるけばまだ歩ける。そこで注意の通り、なるべく気をつけて、長蔵さんと赤毛布の後《あと》を跟《つ》けて行った。路《みち》があまり広くないので四人《よつたり》は一行《いちぎょう》に並べない。だから後を跟ける事にした。小僧は小さいからこれも一足|後《おく》れて、自分と摺々《すれすれ》くらいになって食っついてくる。
自分は腹が重いのと、足が重いのとの両方で、口を利《き》くのが厭《いや》になった。長蔵さんも橋を渡ってから以後とんと御前さんを使わなくなった。赤毛布はさっき一膳飯屋の前で談判をした時から、余り多弁ではなかったが、どう云うものかここに至ってますます無口となっちまった。小僧の無口はさらにはなはだしかった。穿《は》いている冷飯草履《ひやめしぞうり》がぴちゃぴちゃ鳴るばかりであ
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