んぞ大鵬《たいほう》の志《こころざし》を知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、独仙君はそうさと云わぬばかりの顔付で話を進める。
「昔《むか》しスペインにコルドヴァと云う所があった……」
「今でもありゃしないか」
「あるかも知れない。今昔の問題はとにかく、そこの風習として日暮れの鐘がお寺で鳴ると、家々の女がことごとく出て来て河へ這入《はい》って水泳をやる……」
「冬もやるんですか」
「その辺はたしかに知らんが、とにかく貴賤老若《きせんろうにゃく》の別なく河へ飛び込む。但《ただ》し男子は一人も交らない。ただ遠くから見ている。遠くから見ていると暮色蒼然《ぼしょくそうぜん》たる波の上に、白い肌《はだえ》が模糊《もこ》として動いている……」
「詩的ですね。新体詩になりますね。なんと云う所ですか」と東風君は裸体《らたい》が出さえすれば前へ乗り出してくる。
「コルドヴァさ。そこで地方の若いものが、女といっしょに泳ぐ事も出来ず、さればと云って遠くから判然その姿を見る事も許されないのを残念に思って、ちょっといたずらをした……」
「へえ、どんな趣向だい」といたずらと聞いた迷亭君は大《おおい》に嬉しがる。

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