「お寺の鐘つき番に賄賂《わいろ》を使って、日没を合図に撞《つ》く鐘を一時間前に鳴らした。すると女などは浅墓《あさはか》なものだから、そら鐘が鳴ったと云うので、めいめい河岸《かし》へあつまって半襦袢《はんじゅばん》、半股引《はんももひき》の服装でざぶりざぶりと水の中へ飛び込んだ。飛び込みはしたものの、いつもと違って日が暮れない」
「烈《はげ》しい秋の日がかんかんしやしないか」
「橋の上を見ると男が大勢立って眺《なが》めている。恥ずかしいがどうする事も出来ない。大に赤面したそうだ」
「それで」
「それでさ、人間はただ眼前の習慣に迷わされて、根本の原理を忘れるものだから気をつけないと駄目だと云う事さ」
「なるほどありがたい御説教だ。眼前の習慣に迷わされの御話しを僕も一つやろうか。この間ある雑誌をよんだら、こう云う詐欺師《さぎし》の小説があった。僕がまあここで書画|骨董店《こっとうてん》を開くとする。で店頭に大家の幅《ふく》や、名人の道具類を並べておく。無論|贋物《にせもの》じゃない、正直正銘《しょうじきしょうめい》、うそいつわりのない上等品ばかり並べておく。上等品だからみんな高価にきまってる
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