大事だから警察で保護するんだが、その時分の国民は生きてるのが苦痛だから、巡査が慈悲のために打《ぶ》ち殺してくれるのさ。もっとも少し気の利《き》いたものは大概自殺してしまうから、巡査に打殺《ぶちころ》されるような奴はよくよく意気地なしか、自殺の能力のない白痴もしくは不具者に限るのさ。それで殺されたい人間は門口《かどぐち》へ張札をしておくのだね。なにただ、殺されたい男ありとか女ありとか、はりつけておけば巡査が都合のいい時に巡《まわ》ってきて、すぐ志望通り取計ってくれるのさ。死骸かね。死骸はやっぱり巡査が車を引いて拾ってあるくのさ。まだ面白い事が出来てくる。……」
「どうも先生の冗談《じょうだん》は際限がありませんね」と東風君は大《おおい》に感心している。すると独仙君は例の通り山羊髯《やぎひげ》を気にしながら、のそのそ弁じ出した。
「冗談と云えば冗談だが、予言と云えば予言かも知れない。真理に徹底しないものは、とかく眼前の現象世界に束縛せられて泡沫《ほうまつ》の夢幻《むげん》を永久の事実と認定したがるものだから、少し飛び離れた事を云うと、すぐ冗談にしてしまう」
「燕雀《えんじゃく》焉《いずく》
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