ると落雲館の倫理の先生はこう云うね。諸君公徳などと云う野蛮の遺風を墨守《ぼくしゅ》してはなりません。世界の青年として諸君が第一に注意すべき義務は自殺である。しかして己《おの》れの好むところはこれを人に施《ほど》こして可なる訳だから、自殺を一歩展開して他殺にしてもよろしい。ことに表の窮措大《きゅうそだい》珍野苦沙弥氏のごときものは生きてござるのが大分苦痛のように見受けらるるから、一刻も早く殺して進ぜるのが諸君の義務である。もっとも昔と違って今日は開明の時節であるから槍《やり》、薙刀《なぎなた》もしくは飛道具の類《たぐい》を用いるような卑怯《ひきょう》な振舞をしてはなりません。ただあてこすりの高尚なる技術によって、からかい殺すのが本人のため功徳《くどく》にもなり、また諸君の名誉にもなるのであります。……」
「なるほど面白い講義をしますね」
「まだ面白い事があるよ。現代では警察が人民の生命財産を保護するのを第一の目的としている。ところがその時分になると巡査が犬殺しのような棍棒《こんぼう》をもって天下の公民を撲殺《ぼくさつ》してあるく。……」
「なぜです」
「なぜって今の人間は生命《いのち》が
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