ーンと毛布《けっと》を通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。何時《なんじ》だと思う、君」
「知らないね」
「九時だよ。これから秋の夜長をたった一人、山道八丁を大平《おおだいら》と云う所まで登るのだが、平生なら臆病な僕の事だから、恐しくってたまらないところだけれども、一心不乱となると不思議なもので、怖《こわ》いにも怖くないにも、毛頭そんな念はてんで心の中に起らないよ。ただヴァイオリンが弾きたいばかりで胸が一杯になってるんだから妙なものさ。この大平と云う所は庚申山の南側で天気のいい日に登って見ると赤松の間から城下が一目に見下《みおろ》せる眺望佳絶の平地で――そうさ広さはまあ百坪もあろうかね、真中に八畳敷ほどな一枚岩があって、北側は鵜《う》の沼《ぬま》と云う池つづきで、池のまわりは三抱えもあろうと云う樟《くすのき》ばかりだ。山のなかだから、人の住んでる所は樟脳《しょうのう》を採《と》る小屋が一軒あるばかり、池の近辺は昼でもあまり心持ちのいい場所じゃない。幸い工兵が演習のため道を切り開いてくれたから、登るのに骨は折れない。ようやく一枚岩の上へ来て、毛布《けっと》を敷いて、ともかくもその上へ坐
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