かへ行くのかい」
「まあ少し黙って聞いて下さい。そう一句毎に邪魔をされちゃ話が出来ない。……」
「おい諸君、だまるんだとさ。シーシー」
「しゃべるのは君だけだぜ」
「うん、そうか、これは失敬、謹聴謹聴」
「ヴァイオリンを小脇に抱《か》い込んで、草履《ぞうり》を突《つっ》かけたまま二三歩草の戸を出たが、まてしばし……」
「そらおいでなすった。何でも、どっかで停電するに違ないと思った」
「もう帰ったって甘干しの柿はないぜ」
「そう諸先生が御まぜ返しになってははなはだ遺憾《いかん》の至りだが、東風君一人を相手にするより致し方がない。――いいかね東風君、二三歩出たがまた引き返して、国を出るとき三円二十銭で買った赤毛布《あかげっと》を頭から被《かぶ》ってね、ふっとランプを消すと君|真暗闇《まっくらやみ》になって今度は草履《ぞうり》の所在地《ありか》が判然しなくなった」
「一体どこへ行くんだい」
「まあ聞いてたまい。ようやくの事草履を見つけて、表へ出ると星月夜に柿落葉、赤毛布にヴァイオリン。右へ右へと爪先上《つまさきあが》りに庚申山《こうしんやま》へ差しかかってくると、東嶺寺《とうれいじ》の鐘がボ
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