「いよいよ出たね」と東風君が云うと「滅多《めった》に弾くとあぶないよ」と迷亭君が注意した。
「まず弓を取って、切先《きっさき》から鍔元《つばもと》までしらべて見る……」
「下手な刀屋じゃあるまいし」と迷亭君が冷評《ひやか》した。
「実際これが自分の魂だと思うと、侍《さむらい》が研《と》ぎ澄した名刀を、長夜《ちょうや》の灯影《ほかげ》で鞘払《さやばらい》をする時のような心持ちがするものですよ。私は弓を持ったままぶるぶるとふるえました」
「全く天才だ」と云う東風君について「全く癲癇《てんかん》だ」と迷亭君がつけた。主人は「早く弾いたらよかろう」と云う。独仙君は困ったものだと云う顔付をする。
「ありがたい事に弓は無難です。今度はヴァイオリンを同じくランプの傍《そば》へ引き付けて、裏表共よくしらべて見る。この間《あいだ》約五分間、つづらの底では始終|※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]《こおろぎ》が鳴いていると思って下さい。……」
「何とでも思ってやるから安心して弾くがいい」
「まだ弾きゃしません。――幸いヴァイオリンも疵《きず》がない。これなら大丈夫とぬっくと立ち上がる……」
「どっ
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