亭君は大きな赤い舌をぺろりと出した。独仙君は毫《ごう》も関せざるもののごとく、「さあ君の番だ」とまた相手を促《うなが》した。
「君はヴァイオリンをいつ頃から始めたのかい。僕も少し習おうと思うのだが、よっぽどむずかしいものだそうだね」と東風君が寒月君に聞いている。
「うむ、一と通りなら誰にでも出来るさ」
「同じ芸術だから詩歌《しいか》の趣味のあるものはやはり音楽の方でも上達が早いだろうと、ひそかに恃《たの》むところがあるんだが、どうだろう」
「いいだろう。君ならきっと上手になるよ」
「君はいつ頃から始めたのかね」
「高等学校時代さ。――先生|私《わたく》しのヴァイオリンを習い出した顛末《てんまつ》をお話しした事がありましたかね」
「いいえ、まだ聞かない」
「高等学校時代に先生でもあってやり出したのかい」
「なあに先生も何もありゃしない。独習さ」
「全く天才だね」
「独習なら天才と限った事もなかろう」と寒月君はつんとする。天才と云われてつんとするのは寒月君だけだろう。
「そりゃ、どうでもいいが、どう云う風に独習したのかちょっと聞かしたまえ。参考にしたいから」
「話してもいい。先生話しましょ
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