うかね」
「ああ話したまえ」
「今では若い人がヴァイオリンの箱をさげて、よく往来などをあるいておりますが、その時分は高等学校生で西洋の音楽などをやったものはほとんどなかったのです。ことに私のおった学校は田舎《いなか》の田舎で麻裏草履《あさうらぞうり》さえないと云うくらいな質朴な所でしたから、学校の生徒でヴァイオリンなどを弾《ひ》くものはもちろん一人もありません。……」
「何だか面白い話が向うで始まったようだ。独仙君いい加減に切り上げようじゃないか」
「まだ片づかない所が二三箇所ある」
「あってもいい。大概な所なら、君に進上する」
「そう云ったって、貰う訳にも行かない」
「禅学者にも似合わん几帳面《きちょうめん》な男だ。それじゃ一気呵成《いっきかせい》にやっちまおう。――寒月君何だかよっぽど面白そうだね。――あの高等学校だろう、生徒が裸足《はだし》で登校するのは……」
「そんな事はありません」
「でも、皆《みん》なはだしで兵式体操をして、廻れ右をやるんで足の皮が大変厚くなってると云う話だぜ」
「まさか。だれがそんな事を云いました」
「だれでもいいよ。そうして弁当には偉大なる握り飯を一個、
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