挙げるためには何でもする。あれは始末に行《ゆ》かないものだ。願《ねがわ》くばもう少し遠慮をしてもらいたい。遠慮をしなければ事実は決して挙げさせない事にしたらよかろう。聞くところによると彼等は羅織虚構《らしききょこう》をもって良民を罪に陥《おとしい》れる事さえあるそうだ。良民が金を出して雇っておく者が、雇主を罪にするなどときてはこれまた立派な気狂《きちがい》である。次に眼を転じて真中を見ると真中には大分県《おおいたけん》が宙返りをしている。伊藤博文でさえ逆か立ちをするくらいだから、大分県が宙返りをするのは当然である。主人はここまで読んで来て、双方へ握《にぎ》り拳《こぶし》をこしらえて、これを高く天井に向けて突きあげた。あくびの用意である。
このあくびがまた鯨《くじら》の遠吠《とおぼえ》のようにすこぶる変調を極《きわ》めた者であったが、それが一段落を告げると、主人はのそのそと着物をきかえて顔を洗いに風呂場へ出掛けて行った。待ちかねた細君はいきなり布団《ふとん》をまくって夜着《よぎ》を畳んで、例の通り掃除をはじめる。掃除が例の通りであるごとく、主人の顔の洗い方も十年一日のごとく例の通りであ
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