なか自信家だから容易に姉の云う事なんか聞きそうにしない。「いやーよ、ばぶ」と云いながら雑巾を引っ張り返した。このばぶ[#「ばぶ」に傍点]なる語はいかなる意義で、いかなる語源を有しているか、誰も知ってるものがない。ただこの坊やちゃんが癇癪《かんしゃく》を起した時に折々ご使用になるばかりだ。雑巾はこの時姉の手と、坊やちゃんの手で左右に引っ張られるから、水を含んだ真中からぽたぽた雫《しずく》が垂《た》れて、容赦なく坊やの足にかかる、足だけなら我慢するが膝のあたりがしたたか濡れる。坊やはこれでも元禄《げんろく》を着ているのである。元禄とは何の事だとだんだん聞いて見ると、中形《ちゅうがた》の模様なら何でも元禄だそうだ。一体だれに教わって来たものか分らない。「坊やちゃん、元禄が濡れるから御よしなさい、ね」と姉が洒落《しゃ》れた事を云う。その癖《くせ》この姉はついこの間まで元禄と双六《すごろく》とを間違えていた物識《ものし》りである。
元禄で思い出したからついでに喋舌《しゃべ》ってしまうが、この子供の言葉ちがいをやる事は夥《おびただ》しいもので、折々人を馬鹿にしたような間違を云ってる。火事で茸《き
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