い》ったらしい。御三はそんな事に頓着する女ではない。直ちにくだけたる三個の炭を鍋《なべ》の尻から七輪の中へ押し込んだ。とうてい吾輩のシンフォニーには耳を傾けそうにもない。仕方がないから悄然《しょうぜん》と茶の間の方へ引きかえそうとして風呂場の横を通り過ぎると、ここは今女の子が三人で顔を洗ってる最中で、なかなか繁昌《はんじょう》している。
顔を洗うと云ったところで、上の二人が幼稚園の生徒で、三番目は姉の尻についてさえ行かれないくらい小さいのだから、正式に顔が洗えて、器用に御化粧が出来るはずがない。一番小さいのがバケツの中から濡《ぬ》れ雑巾《ぞうきん》を引きずり出してしきりに顔中|撫《な》で廻わしている。雑巾で顔を洗うのは定めし心持ちがわるかろうけれども、地震がゆるたびにおもちろいわ[#「おもちろいわ」に傍点]と云う子だからこのくらいの事はあっても驚ろくに足らん。ことによると八木独仙君より悟っているかも知れない。さすがに長女は長女だけに、姉をもって自《みずか》ら任じているから、うがい茶碗をからからかんと抛出《ほうりだ》して「坊やちゃん、それは雑巾よ」と雑巾をとりにかかる。坊やちゃんもなか
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