のこ》が飛んで来たり、御茶《おちゃ》の味噌《みそ》の女学校へ行ったり、恵比寿《えびす》、台所《だいどこ》と並べたり、或る時などは「わたしゃ藁店《わらだな》の子じゃないわ」と云うから、よくよく聞き糺《ただ》して見ると裏店《うらだな》と藁店を混同していたりする。主人はこんな間違を聞くたびに笑っているが、自分が学校へ出て英語を教える時などは、これよりも滑稽な誤謬《ごびゅう》を真面目になって、生徒に聞かせるのだろう。
 坊やは――当人は坊やとは云わない。いつでも坊ば[#「坊ば」に傍点]と云う――元禄が濡れたのを見て「元《げん》どこ[#「どこ」に傍点]がべたい[#「べたい」に傍点]」と云って泣き出した。元禄が冷たくては大変だから、御三が台所から飛び出して来て、雑巾を取上げて着物を拭《ふ》いてやる。この騒動中比較的静かであったのは、次女のすん子嬢である。すん子嬢は向うむきになって棚の上からころがり落ちた、お白粉《しろい》の瓶《びん》をあけて、しきりに御化粧を施《ほどこ》している。第一に突っ込んだ指をもって鼻の頭をキューと撫《な》でたから竪《たて》に一本白い筋が通って、鼻のありかがいささか分明《ぶん
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