た吾輩はにゃあにゃあと甘えるごとく、訴うるがごとく、あるいはまた怨《えん》ずるがごとく泣いて見た。御三はいっこう顧みる景色《けしき》がない。生れついてのお多角《たかく》だから人情に疎《うと》いのはとうから承知の上だが、そこをうまく泣き立てて同情を起させるのが、こっちの手際《てぎわ》である。今度はにゃごにゃごとやって見た。その泣き声は吾ながら悲壮の音《おん》を帯びて天涯《てんがい》の遊子《ゆうし》をして断腸の思あらしむるに足ると信ずる。御三は恬《てん》として顧《かえり》みない。この女は聾《つんぼ》なのかも知れない。聾では下女が勤まる訳《わッ》がないが、ことによると猫の声だけには聾なのだろう。世の中には色盲《しきもう》というのがあって、当人は完全な視力を具えているつもりでも、医者から云わせると片輪《かたわ》だそうだが、この御三は声盲《せいもう》なのだろう。声盲だって片輪に違いない。片輪のくせにいやに横風《おうふう》なものだ。夜中なぞでも、いくらこっちが用があるから開けてくれろと云っても決して開けてくれた事がない。たまに出してくれたと思うと今度はどうしても入れてくれない。夏だって夜露は毒だ。
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