ニう》と浴びせかけられたのだから、朝鮮仁参《ちょうせんにんじん》も飴《あめ》ん棒の状袋もすっかり忘れてしまってただ苦しまぎれに妙な返事をする。
「私も……私も……ちょっと伺がうはずでありましたところ……何分よろしく」と云い終って頭を少々畳から上げて見ると老人は未《いま》だに平伏しているので、はっと恐縮してまた頭をぴたりと着けた。
 老人は呼吸を計って首をあげながら「私ももとはこちらに屋敷も在《あ》って、永らく御膝元でくらしたものでがすが、瓦解《がかい》の折にあちらへ参ってからとんと出てこんのでな。今来て見るとまるで方角も分らんくらいで、――迷亭にでも伴《つ》れてあるいてもらわんと、とても用達《ようたし》も出来ません。滄桑《そうそう》の変《へん》とは申しながら、御入国《ごにゅうこく》以来三百年も、あの通り将軍家の……」と云いかけると迷亭先生面倒だと心得て
「伯父さん将軍家もありがたいかも知れませんが、明治の代《よ》も結構ですぜ。昔は赤十字なんてものもなかったでしょう」
「それはない。赤十字などと称するものは全くない。ことに宮様の御顔を拝むなどと云う事は明治の御代《みよ》でなくては出来ぬ事
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