、か御遠慮なく、さあどうぞ」
「御謙遜では……恐れますから……どうか」主人は真赤《まっか》になって口をもごもご云わせている。精神修養もあまり効果がないようである。迷亭君は襖《ふすま》の影から笑いながら立見をしていたが、もういい時分だと思って、後《うし》ろから主人の尻を押しやりながら
「まあ出たまえ。そう唐紙《からかみ》へくっついては僕が坐る所がない。遠慮せずに前へ出たまえ」と無理に割り込んでくる。主人はやむを得ず前の方へすり出る。
「苦沙弥君これが毎々君に噂をする静岡の伯父だよ。伯父さんこれが苦沙弥君です」
「いや始めて御目にかかります、毎度迷亭が出て御邪魔を致すそうで、いつか参上の上御高話を拝聴致そうと存じておりましたところ、幸い今日《こんにち》は御近所を通行致したもので、御礼|旁《かたがた》伺った訳で、どうぞ御見知りおかれまして今後共|宜《よろ》しく」と昔《むか》し風な口上を淀《よど》みなく述べたてる。主人は交際の狭い、無口な人間である上に、こんな古風な爺《じい》さんとはほとんど出会った事がないのだから、最初から多少|場《ば》うての気味で辟易《へきえき》していたところへ、滔々《とう
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