C鼠を食《くら》えるものは親鸞《しんらん》の再来にして、河豚《ふぐ》を喫せるものは日蓮《にちれん》の分身なり。苦沙弥先生の如きに至っては只《ただ》干瓢《かんぴょう》の酢味噌《すみそ》を知るのみ。干瓢の酢味噌を食《くら》って天下の士たるものは、われ未《いま》だ之《これ》を見ず。……
親友も汝《なんじ》を売るべし。父母《ふぼ》も汝に私《わたくし》あるべし。愛人も汝を棄つべし。富貴《ふっき》は固《もと》より頼みがたかるべし。爵禄《しゃくろく》は一朝《いっちょう》にして失うべし。汝の頭中に秘蔵する学問には黴《かび》が生《は》えるべし。汝何を恃《たの》まんとするか。天地の裡《うち》に何をたのまんとするか。神? 神は人間の苦しまぎれに捏造《でつぞう》せる土偶《どぐう》のみ。人間のせつな糞《ぐそ》の凝結せる臭骸のみ。恃《たの》むまじきを恃んで安しと云う。咄々《とつとつ》、酔漢|漫《みだ》りに胡乱《うろん》の言辞を弄して、蹣跚《まんさん》として墓に向う。油尽きて灯《とう》自《おのずか》ら滅す。業尽きて何物をか遺《のこ》す。苦沙弥先生よろしく御茶でも上がれ。……
人を人と思わざれば畏《おそ》るる所なし。
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