驕Bこれは胎毒《たいどく》のためだとも云うし、あるいは疱瘡《ほうそう》の余波だとも解釈されて、小さい時分はだいぶ柳の虫や赤蛙の厄介になった事もあるそうだが、せっかく母親の丹精も、あるにその甲斐《かい》あらばこそ、今日《こんにち》まで生れた当時のままでぼんやりしている。吾輩ひそかに思うにこの状態は決して胎毒や疱瘡のためではない。彼の眼玉がかように晦渋溷濁《かいじゅうこんだく》の悲境に彷徨《ほうこう》しているのは、とりも直さず彼の頭脳が不透不明《ふとうふめい》の実質から構成されていて、その作用が暗憺溟濛《あんたんめいもう》の極に達しているから、自然とこれが形体の上にあらわれて、知らぬ母親にいらぬ心配を掛けたんだろう。煙たって火あるを知り、まなこ濁って愚《ぐ》なるを証す。して見ると彼の眼は彼の心の象徴で、彼の心は天保銭《てんぽうせん》のごとく穴があいているから、彼の眼もまた天保銭と同じく、大きな割合に通用しないに違ない。
今度は髯《ひげ》をねじり始めた。元来から行儀のよくない髯でみんな思い思いの姿勢をとって生《は》えている。いくら個人主義が流行《はや》る世の中だって、こう町々《まちまち》に
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