「するよりも「あばた[#「あばた」に傍点]の顔面に及ぼす影響」と云う大問題を造作《ぞうさ》もなく解釈して、不言《ふげん》の間《かん》にその答案を生徒に与えつつある。もし主人のような人間が教師として存在しなくなった暁《あかつき》には彼等生徒はこの問題を研究するために図書館もしくは博物館へ馳けつけて、吾人がミイラによって埃及人《エジプトじん》を髣髴《ほうふつ》すると同程度の労力を費《つい》やさねばならぬ。この点《てん》から見ると主人の痘痕《あばた》も冥々《めいめい》の裡《うち》に妙な功徳《くどく》を施こしている。
もっとも主人はこの功徳を施こすために顔一面に疱瘡《ほうそう》を種《う》え付けたのではない。これでも実は種え疱瘡をしたのである。不幸にして腕に種えたと思ったのが、いつの間《ま》にか顔へ伝染していたのである。その頃は小供の事で今のように色気《いろけ》もなにもなかったものだから、痒《かゆ》い痒いと云いながら無暗《むやみ》に顔中引き掻《か》いたのだそうだ。ちょうど噴火山が破裂してラヴァが顔の上を流れたようなもので、親が生んでくれた顔を台なしにしてしまった。主人は折々細君に向って疱瘡をせ
前へ
次へ
全750ページ中503ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング