は、あまり早過ぎる。だから何等かの手段をもってこの自然の傾向を幾分かゆるめなければならん。これ即《すなわ》ち降りるのである。落ちるのと降りるのは大変な違のようだが、その実思ったほどの事ではない。落ちるのを遅くすると降りるので、降りるのを早くすると落ちる事になる。落ちると降りるのは、ち[#「ち」に傍点]とり[#「り」に傍点]の差である。吾輩は松の木の上から落ちるのはいやだから、落ちるのを緩《ゆる》めて降りなければならない。即《すなわ》ちあるものをもって落ちる速度に抵抗しなければならん。吾輩の爪は前《ぜん》申す通り皆|後《うし》ろ向きであるから、もし頭を上にして爪を立てればこの爪の力は悉《ことごと》く、落ちる勢に逆《さから》って利用出来る訳である。従って落ちるが変じて降りるになる。実に見易《みやす》き道理である。しかるにまた身を逆《さか》にして義経流に松の木|越《ごえ》をやって見給え。爪はあっても役には立たん。ずるずる滑って、どこにも自分の体量を持ち答える事は出来なくなる。ここにおいてかせっかく降りようと企《くわだ》てた者が変化して落ちる事になる。この通り鵯越《ひよどりごえ》はむずかしい。
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