ん。こいつの方なら受け合えない代りに価段《ねだん》を引いておきますと云った。僕はこの問答を未《いま》だに記憶しているんだがその時小供心に女と云うものはなるほど油断のならないものだと思ったよ。――しかし明治三十八年の今日《こんにち》こんな馬鹿な真似をして女の子を売ってあるくものもなし、眼を放して後《うし》ろへ担《かつ》いだ方は険呑《けんのん》だなどと云う事も聞かないようだ。だから、僕の考ではやはり泰西《たいせい》文明の御蔭で女の品行もよほど進歩したものだろうと断定するのだが、どうだろう寒月君」
寒月君は返事をする前にまず鷹揚《おうよう》な咳払《せきばらい》を一つして見せたが、それからわざと落ちついた低い声で、こんな観察を述べられた。「この頃の女は学校の行き帰りや、合奏会や、慈善会や、園遊会で、ちょいと買って頂戴な、あらおいや? などと自分で自分を売りにあるいていますから、そんな八百屋《やおや》のお余りを雇って、女の子はよしか、なんて下品な依托販売《いたくはんばい》をやる必要はないですよ。人間に独立心が発達してくると自然こんな風になるものです。老人なんぞはいらぬ取越苦労をして何とかかとか
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