下げる。「実に御気の毒さ。しかもその時分の女が必《かなら》ずしも今の女より品行がいいと限らんからね。奥さん近頃は女学生が堕落したの何だのとやかましく云いますがね。なに昔はこれより烈《はげ》しかったんですよ」「そうでしょうか」と細君は真面目である。「そうですとも、出鱈目《でたらめ》じゃない、ちゃんと証拠があるから仕方がありませんや。苦沙弥君、君も覚えているかも知れんが僕等の五六歳の時までは女の子を唐茄子《とうなす》のように籠《かご》へ入れて天秤棒《てんびんぼう》で担《かつ》いで売ってあるいたもんだ、ねえ君」「僕はそんな事は覚えておらん」「君の国じゃどうだか知らないが、静岡じゃたしかにそうだった」「まさか」と細君が小さい声を出すと、「本当ですか」と寒月君が本当らしからぬ様子で聞く。
「本当さ。現に僕のおやじが価《ね》を付けた事がある。その時僕は何でも六つくらいだったろう。おやじといっしょに油町《あぶらまち》から通町《とおりちょう》へ散歩に出ると、向うから大きな声をして女の子はよしかな、女の子はよしかなと怒鳴《どな》ってくる。僕等がちょうど二丁目の角へ来ると、伊勢源《いせげん》と云う呉服屋の
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