ると云う不体裁もなく、蒸籠《せいろ》二つを安々とやってのけたのは結構だった。
「寒月君博士論文はもう脱稿するのかね」と主人が聞くと迷亭もその後《あと》から「金田令嬢がお待ちかねだから早々《そうそう》呈出《ていしゅつ》したまえ」と云う。寒月君は例のごとく薄気味の悪い笑を洩《も》らして「罪ですからなるべく早く出して安心させてやりたいのですが、何しろ問題が問題で、よほど労力の入《い》る研究を要するのですから」と本気の沙汰とも思われない事を本気の沙汰らしく云う。「そうさ問題が問題だから、そう鼻の言う通りにもならないね。もっともあの鼻なら充分鼻息をうかがうだけの価値はあるがね」と迷亭も寒月流な挨拶をする。比較的に真面目なのは主人である。「君の論文の問題は何とか云ったっけな」「蛙の眼球《めだま》の電動作用に対する紫外光線《しがいこうせん》の影響と云うのです」「そりゃ奇だね。さすがは寒月先生だ、蛙の眼球は振《ふる》ってるよ。どうだろう苦沙弥君、論文脱稿前にその問題だけでも金田家へ報知しておいては」主人は迷亭の云う事には取り合わないで「君そんな事が骨の折れる研究かね」と寒月君に聞く。「ええ、なかなか複
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