うですね」と細君は考える。考えれば分ると思っているらしい。
「あなたは夕《ゆう》べ何時に御休みになったんですか」
「俺の寝たのは御前よりあとだ」
「ええ私《わたく》しの伏せったのは、あなたより前です」
「眼が覚めたのは何時だったかな」
「七時半でしたろう」
「すると盗賊の這入《はい》ったのは、何時頃になるかな」
「なんでも夜なかでしょう」
「夜中《よなか》は分りきっているが、何時頃かと云うんだ」
「たしかなところはよく考えて見ないと分りませんわ」と細君はまだ考えるつもりでいる。巡査はただ形式的に聞いたのであるから、いつ這入ったところが一向《いっこう》痛痒《つうよう》を感じないのである。嘘でも何でも、いい加減な事を答えてくれれば宜《よ》いと思っているのに主人夫婦が要領を得ない問答をしているものだから少々|焦《じ》れたくなったと見えて
「それじゃ盗難の時刻は不明なんですな」と云うと、主人は例のごとき調子で
「まあ、そうですな」と答える。巡査は笑いもせずに
「じゃあね、明治三十八年何月何日戸締りをして寝たところが盗賊が、どこそこの雨戸を外《はず》してどこそこに忍び込んで品物を何点盗んで行った
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